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クリエイティブってどういうことを言うのだろう?
こんにちは じんじょ です。
わたしは研究開発職という仕事柄、新しい商品のアイディア出しを求められることがあります。また駐在員時代は、取り組むべき課題が明確でない場合が多く、自ら課題を設定し、自分や部下がやるべき仕事 “そのもの” を創り出すことに頭を悩ませていました。
いずれもクリエイティビティが問われる仕事です。
残念ながらわたしはこうした「創造力」や「発想力」にはあまり自信がありません。。。
右脳派か、左脳派か、と問われれば間違いなく左脳派です。ザ・ロジカル人間。
妻には、「いちいち根拠は?って聞いてきてウザい」と罵られることも。その分、クリエイターと呼ばれるような発想が豊かな人たちには憧れを抱きます。お笑い芸人なんかも想像力が豊かですよね、尊敬します。
「使い古されたアイディアでも、思わぬ組み合わせからイノベーションが生まれる」なんて言ったりしますが、言うが易し、いざ実行に移そうと思ってもどこから手を付けてよいのやら。
結局のところ、
どうすればクリエイティブになれるのだろう?そもそも創造的であるってどういうことを言うのだろう?
その答えは『才能をひらく編集工学』に書かれていました。
創造性の源は アナロジー(連想力) であると。
この記事では、『才能をひらく編集工学』から学んだ創造的なものの見方や考え方について記します。
アナロジー(連想力)が創造性の源
『才能をひらく編集工学』は、編集工学研究所の専務取締役(2020年10月現在)を務める安藤昭子さんが書かれています。書店で、
科学道100フェア
というのをご覧になったことはありますでしょうか?
最近は毎年恒例の行事となっているようですが、理化学研究所と共同で、この科学書籍を100冊フィーチャーするキャンペーンを企画しているのが 編集工学研究所 です。他にも、リクルートの社是を作ったり、無印のショップ・イン・ショップMUJI BOOKSを設計したりと、幅広く事業を手掛けているようです。
書籍『才能をひらく編集工学』では、編集工学研究所が創造的な仕事に取り組むうえで活用している モノの見方や考え方 が書かれています。
その源泉が アナロジー(連想力) です。
こうした思考法は、課題解決に向けて行き詰っているときや、そもそも「考えるべきこと “それ自体を考える” 必要がある」とき(駐在員時代のわたしはまさしくコレ!)にこそ有効とされています。
アナロジーのわかりやすい例として、本書では「電気」が真っ先に取り上げられています。わたしたちは「電力」「電流」「電源」などの電気にまつわる言葉たくさんを持っていますが、これらはすべて
「電気の流れ」 を 「水の流れ」 に
なぞらえたアナロジーなのです。
両者を対比させると非常にわかりやすいと思います。
電力 ― 水力
電流 ― 水流
電源 ― 水源
漏電 ― 漏水
蓄電 ― 貯水
われわれの身近なところには、こうしたアナロジーが数多く存在します。
子どものごっこ遊びでは泥団子をご飯に「見立て」ています。大喜利は「アナロジー」を駆使して笑いを引き出す技巧ですし、俳句は人々の「連想力」を掻き立てモノゴトのゆるやかな結びつきが美しい世界を奏でます。
そして、科学的なブレイクスルーもアナロジーによってもたらされます。
ニュートンは、「なぜいつもリンゴは真下に落ちるのか?」という疑問から、「引力」という概念を “連想” し、万有引力の法則を導きました。
ニュートンの例から分かるように「良いアナロジー」は新しい視点や飛躍したアイデアをもたらします。
本書の中で取り上げられている秀逸なアナロジーとして、「会議」を「黒ひげ危機一髪」になぞらえた例が強く印象に残っています。その心は、「新しいアイデアは、誰の意見がきっかけで飛び出すかわからない」というもの。
こうして見立ててみると、見慣れた会議のイメージがちょっとしたゲームの緊迫感とともに動き始めます。
『才能をひきだす編集工学』
そういうイメージが一度できると、「アイデアが飛び出すまでは全員持ち回りで発言する」とか、「ナイフをグッと奥まで刺すように発言もしっかり踏み込まないと次にいけない」とか、「発言全部がアタリじゃなくてもいいんだよね」とか、ゲームにある細部の特徴やモデルを借りてくることで、芋づる式に新しい会議のイメージが引き出されていきます。
会議とは縁もゆかりもない例えですが、こうした対象から遠いところに位置するモノの方が、より発想の跳躍力を高めてくれます。上の例からもわかるように「黒ひげ危機一髪」という1つの有効なアナロジー(仮説)が、会議の在り方に対する複数の新しい視点をもたらしてくれるのです。
アナロジーが非常に創造的な営みであることをわかっていただけましたでしょうか?
アナロジカルな連想力は誰にでも備わっている
こうした連想力を高めるために、本書の中では数多くのティップスが紹介されています。
❶ 「わける」という行為は創造的な営みであると知る
(どこから手を付けてよいかわからないタスクをまずは細分化することで仕事が前進する)
❷ 情報は多面的であることを知る
(結婚式は新郎新婦にとっては新しい生活の「始まり」であり、両親にとっては子育ての「終焉」である)
❸ われわれは適宜スキーマ(思考のための枠組み)やフレーム(スキーマの組み合わせ)を乗り換えながら情報を処理していると知る
(スキーマやフレームを外したり、壊したりすることで「笑い」を生み出す「お笑い」が国境を越えにくいのは、言語や文化ごとにそれらが異なるから)
こうした考え方は、トレンド・トピックであるイノベーションや、課題の再設定やリフレーミングを特徴とするデザイン思考に通じるものがあるように感じます。
「ロジカルシンキングの一歩先へ」
というイメージでしょうか。
アナロジカルな思考法は本書の中で、「関係発見力」「述語的統一」「アブダクション」「メタファー」「仮説思考」などさまざまな側面から言い換えられ、まさしく“多面的”に取り上げられています。(対照的なロジカル・シンキングは「主語的」で「要約的」であると説明されています)
そして、われわれは「連想」と「要約」を同時にすることができないため、アナロジカル・シンキングとロジカル・シンキングを両輪とし、課題の発見とそれに続く問題解決のためは、これらの間を行ったり来たりする必要があるのです。
ブレーンストーミングでは「アイデア出しをする段階で人のアイデアを否定しないこと」がセオリーとされている所以はここにあるようですね。会議で「自由に発想するように」と促されながら、発言すれば「実現可能性は?」と問われる状況は、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなもので、にっちもさっちもいかないスタック(行き詰った)された状態に陥ります。
そして、こうした連想力は本来誰にでも備わっているものなのです。子どものころにごっこ遊びをしたことがない人はいないのではないでしょうか。
アナロジカルな思考を動かすためには、自分自身の見方が問われることへの強固な抵抗感を外す必要があります。こうした抵抗は、人の頭の中はこれほどに違うのかという小さな「発見」と、自分のモノの見方にイイねが付く「承認」をもたらす、ちょっとしたグループワークで容易に解きほぐすことができるそうです。
そして、本書はそのオシャレな装丁に負けず劣らずの美しい文章が魅力的です。
古今東西の思想や日本の文化論に至るまで、相当にむずかしい内容を語っているはずなのに、わたしのような素人でも置いてけぼりにならないよう、適度な距離感を保ちながら導いてくれます。小気味の良い語り口で読後感が非常に心地よい一冊でした。本の中で引用されている書籍や思想家についても興味を掻き立てられます(ホワイトヘッド、千利休、花鳥風月の科学、パンとサーカスなど)。
ビジネス書のような側面を持ちつつ、本好きには大満足の一冊です。
大変オススメなので興味のある方はぜひお買い求めください!
連想力を稽古するミメロギアという遊び
最後に、本の中で紹介されているミメロギアという遊びを紹介します。ミメロギアとは、
あるふたつの事柄を並べてそれぞれに一対の形容詞を付けることで両者のらしさを際立たせる
というものです。
たとえば、
「漱石」と「鴎外」でミメロギアせよ
というお題に対して、以下のような回答が考えられたようです。
漱石の草履 ― 鴎外の下駄
へそまがりな漱石 ― いしあたまの鴎外
アールヌーボーの漱石 ― ゴチックの鴎外
マドンナに憧れた漱石 ― 舞姫に焦がれた鴎外
ミメロギアは、編集工学研究所が運営するオンライン・スクール「イシス編集学校」で編集稽古としても使われています。この記事の最後に、本書の中でミニ演習として与えられた以下のお題に答えてみたいと思います。
「令和」と「昭和」でミメロギアしてください。うまくいえば、時代の「らしさ」が立ち上がってくるはずです。
右にならえの「昭和」 ― あっち向いてホイの「令和」
いかがでしょうか?
よろしければ、ぜひ時代の「らしさ」が伝わるような回答例を考えてみてください!